真壁家のゆーうつ・3








 ――― また、空を飛べる。
総士は、一騎の腕を掴んでいる手に、さらに力を込めた。
 そうしないと、落ちそうな気がする。
一騎の、低いうめき声がして、同時に体の中をかき回される。
「…う…あ…ぁ…」
ゆっくりとグラインドする腰に、肩がシーツにこすれて痛む。でも、その痛みも気にならないほどの快感が駆け上がってきて、総士は体を反らせた。
「は…ぁ…」
声が、止められない。
目に映っていた天井が壁に変わり、次いで、畳が見えた。
首が、痛む。堪えきれなくなって、倒れそうになって、一騎の腕に支えられた。
「…気持ちいい?」
何度も頷く。
「いい…ん…あ…っ!」
一騎の腕を掴んだまま、快感に体が痙攣してくるのが分かった。堪えきれない涙が滲む。
「…っ…」
喉が渇き切っていて、声も出せない。
一瞬、意識は空に投げ出される。
総士は目を閉じて意識が宙を飛び回るのに任せた。
 
 「よかった?」
指が頬を撫でる。まだ息を弾ませながら、総士は目を開けた。
一騎が覗き込んでいる。
「…空を…飛んだ…」
声が、掠れている。
小さく、くす、と笑う声がした。
「…いつもそう言うね」
「……ん…」
体の中にあるものが、大きく脈打っているのが分かる。
「お前も…いけた?」
「うん」
ゆっくりと離れようとする体を、引き寄せる。
「…総士?」
「やだ…」
もう少し、感じていたい。
「やだ…って…」
困惑したような声。
「お前も喉、渇いたろ」
「でも…やだ」
「………」
それでも、体は離れようとする。総士は泣きたくなった。
「総士…待ってて、じゃ…」
すばやく体が離れ、その痛みに総士は背中を反らせ、うめいた。
すぐに、唇が重なってくる。
そして、一騎のものが出て行った後に、代わりに指が入ってきた。
「こうしててあげる…」
唇を合わせたまま、小声で囁く。
「何してる…」
聞こうとして、体を持ち上げようとしたとたん、指が動き、総士は再び、布団に体を沈めた。
「…水、飲むだろ? それに体も拭かなくちゃ。
そのままで待ってろ」
 こんな格好で、ただ待っているなんて、嫌だ。
そう思っても、体は自由にならなかった。
指は、深く潜り込み、体の中を探っている。
その動きに翻弄されて、声を上げ、シーツを掴んだ。
 「や…やだ…かずき…っ!」
一騎は、何をしているのだろう。
薄く目を開けてみて、すぐそこに一騎の顔を見つけて息を呑んだ。
「総士…水」
首を軽く持ち上げられ、口移しに水を飲まされる。
視界に、足を開いたままの自分の姿が飛び込んできて、思わず堅く目を閉じた。
また、指が動いて、のけぞる。
一騎の小さな含み笑いが聞こえた。
「総士。目を開けて。きれいだよ、見てごらんよ」
「…や…っ!」
小さく叫んで首を振る。
「もったいない…すごく綺麗なのに…。ああ、でも、これを拭かないと」
手に、タオルを持たされた。
「総士。それで自分で拭いて。俺、拭いてあげたいけど…手がふさがってるし」
小さく笑って指を動かす。
「…指、抜いてもいい?」
「…嫌だ…」
「我儘…」
くすくすと笑い、ぐい、と指に力がこもって奥深くに入ってくる。
「うあ…」
体の震えが止まらない。
それでも、何でもいいから一騎を感じていたかった。
このまま、狂ってもいい。
総士は全身が熱くなるのを感じながら、震える手で自分の胸元を拭いた。
ついさっき、自分が放ったものが散っている。
 手が震えて、うまく拭けない。
苛立ち、タオルを放り出した。
体が、言うことを利かない。
 「一騎…」
腕を掴んで、訴える。
熱を持った体は、指だけでは飽き足らずにさらに刺激を求めて疼いていた。
ゆっくりと、一騎の首に腕を回し、抱き締める。
 一騎も、さっきからすでに猛っているのに。
どうして、何もしてくれないんだろう。
 一騎の指は、深く浅く、焦らすように探ってくる。
総士は一騎の腹を探り、彼のものを見つけて、指を絡めた。
「総士…」
「……」
一騎のそれを、指で包み、撫で、軽くしごく。
表情は、髪に隠れて見えないけれど、きっと気持ちいいのだろう、小さくうめく声が聞こえた。
そろそろと体をずらし、一騎の頬に口付け、耳元で
「…早く…」
と囁く。
「早くって? 何が?」
小さく笑いながら言う。
「言って、総士。言われないと分かんない」
いきなり指を抜かれて、思わず、あっ、と声を上げていた。
「や…やだ…一騎…」
自分でも驚くような、悩ましい声にはっとして口を噤んだ。
「総士…その声で言って…」
肩を抱き寄せられ、再び頭を持ち上げてきた自分のものに一騎の指が絡んでくる。
総士は腰を揺らしてその指にこすりつけた。
「ほら…欲しがってるんじゃん」
くす、と笑う。
「…かずき…」
悔しいのか、何なのか分からない。
涙が滲む。
「かずき………だ……抱いて…」
思い切って、耳元で小さく囁く。
 小さな声だったけれど、確かに、聞こえたらしい。
ゆるく絡んでいた指に、力が込められる。
握りこまれたまま、布団に倒されて、痛みと快感で総士は思わず声を上げた。
「あ…っ…いたい…っ…かず…」
「だって。総士、乱暴にされた方が喜ぶんだもん」
悪戯っぽい声を上げ、そのまま体の上に乗り上げてくる。
「もう一度、空を飛びたいだろ」
顔中に、キスの雨を降らせながら、耳元で低く囁かれて、総士は何度も頷き、その頭を抱え込んだ。





 更衣室で着替えようとして、まだ体が痛むことに気付いた。
 このまま帰って寝てしまおうか。
そんなことが出来るはずもなかったけれど。
 買い物して帰らなくちゃな。

今夜の買い物のことを、一騎に聞いておかなくては。
総士は着替えるとそのまま訓練施設の方に向った。

 
 休憩室で、一騎はスーツのまま、コーヒーを飲んでいた。
椅子から乗り出して笑いかけてくる。
 「おう、総士。もう帰れるの」
「ああ。今夜の買い物…今夜は何、作るんだ?」
「うん、肉じゃが。ジャガイモとかはあるからさ、肉だけ買っといて。
味噌汁は大根でいいだろ」
「分かった。肉…」
渡されたメモを見る。豚バラ二百グラム、と書いてあった。
「二百…でいいのか? 豚バラというのは?」
「肉屋で聞けば分かるよ」
「よう、ずいぶん所帯じみた会話じゃん!」
いきなり肩を叩かれる。剣司だった。
「戦闘指揮官が豚バラってどれですかーってやるんだ」
可笑しそうに、くすくすと笑っている。
一騎はむっとしたように剣司を睨んだ。
「いいじゃんか。ほっとけよ」
「楽しいか、新婚生活」
皮肉な笑みを見せた剣司に、一騎はとびきりの笑顔で答えた。
「ああ、楽しいよ。お前もさっさと結婚しろ」
言うなり、ふん、と鼻を鳴らし、総士に、頼むな、と肩を叩いた。
「ああ。じゃな」
 軽く手を振ってエレベーターに向う。

剣司も帰るところだったのだろう、一緒についてきた。
「お前も上がるのか」
「ああ、もう今日はすんだからな」
エレベーターに乗り込むなり、肩に手を置いてくる。
「なあ、総士。このところお前、綺麗になったなあ」
「そうか。ありがとう」
 軽く息を吐く。
この手のからかいはもう、慣れてしまっていた。
まともに相手になる気もない。
くすくすと剣司は笑った。
「よっぽど一騎に可愛がられてるんじゃない?」
「お前は咲良を可愛がってるんだろう?」
剣司は軽く手を広げ、肩を竦めた。その気障な仕草が、何故か癇に障る。

 なおも肩に触れようとするのをさりげなく避け、エレベーターの壁に指を這わせた。
「咲良はきつくって。なかなか…手ごわいよ。
なあ、一騎ってどんな?」
「どんな、とは?」
壁に、目指すものを見つけて、総士は軽く操作した。
ここにあるものは、目を閉じていても分かる。
「お前がここまで綺麗になるなんて。
どんな風に可愛がってくれるの? このところ、一騎の背中とか、すげえじゃん、引っかき傷が。
お盛んなんだな」
「お前のところも同じだろう」
「そうだなー…咲良がお前ほど色っぽかったらな」
「それを要が聞いたらなんと言うかな」
剣司は、あはは、と笑った。
「どうせ聞こえないもん」
「そう思ってモニター、スイッチ入れておいたぞ」
「え?」
「あとでゆっくり咲良に感想、聞くんだな」
エレベーターが、地上に着いた。
きょとん、とした剣司を残し、外に出て、驚いた。
一騎がいる。
すさまじい形相をしていた。
「どうしたんだ、お前」
「どうしたじゃないよっ! その中でお前ら…っ!」
「ああ」
なるほど。一騎も聞いていて、先回りしたらしい。
相変わらずの脚力に驚きながらも、
「じゃ、後は頼む。俺は帰る」
咲良が、遅れて階段を駆け上がってくるのが見える。
「剣司! きっさまぁーっ!」
「剣司! ちょっとあんた、何やってんのよっ!」
後ろで、一騎の怒号と剣司の悲鳴が聞こえた。
それに重なるように、咲良の金切り声。

 こっちはそれどころじゃないんだ。
 

肉じゃがは、確か、前に作り方を教わった。
何となく覚えている。
 後ろに、剣司の悲鳴を聞きながら、総士は頭の中で肉はどのくらいの大きさに切るんだっけ、と考えていた。












John di ghisinsei http://yokohama.cool.ne.jp/gisinsei1129/

2005/02/12
これが最初に書いたやつだったかなー?
書いてて楽しかったですv
裏に置くほどのもんでもないなーと思ったけど。

これは、いつも御世話になっているれっかあしゃの
しおりさんにプレゼントv
もらってくれv