サンタの通り道






 
   クリスマスが近づいてくる。
一騎は街中の飾りを見ながら、くすっと一人笑いをした。

いつだったかのクリスマス、総士がサンタが入ってこられないと困るから、と偽装鏡面を解除したことを思い出していた。

 本気で信じてたのかな。

何となくおかしく、そして可愛い。


 買い物を終えて、家に戻ると総士は庭で空を見上げていた。
「どうしたの、寒いのに」
「ん? ああ…」
ちらっと振り返り、また空を見る。
「なんかあるの?」
「いや。この空では雲に遮られて視界が悪いな、と思って」
「………」
空を見上げて、何となく違和感を覚え総士を振り返る。
「なあ、もしかして偽装鏡面解除したの?」
「ああ、クリスマスだからな」
「…………そう………」
まさか、と思いつつも、もしかしてそのまさかかも、と再び総士の横顔を伺い見る。

 その横顔も冬の暗い景色の陰で沈んでいるかのような印象を与える。
「一騎、前から疑問だったんだが」
「なに」
「何故サンタは煙突から入るんだろう」
一騎は首を傾げた。
しばし考えた後、
「煙突しか出入り口がないからだと思う…だって夜中だし、戸締りしてるだろう?」
「ああ…そうか。しかし、自分が火傷するかもしれない、ということは考えないのだろうか。
ということを考えていて、ふと思ったんだが」
「ん?」
「もしかしたらサンタクロースと言うのは過去に現れたフェストゥムかも知れん」
「いや…っ…そ、それはないと思うよ」
一騎は慌てて首を振った。

サンタがフェストゥムかも、などという可能性は信じたくない。
サンタクロースなど信じる歳ではないが、夢くらいあってもいいだろう。


「だってさ、フェストゥムも火傷…はしないか…」
戦った時のことを思い出し、呟く。
「ミサイルを撃ち込んでも平気でいるようなやつらだ、暖炉の火くらい、なんともないだろう」
「じゃあ、なんでプレゼント?」
「いや、もしかしたらその頃の彼らはもっと友好的……だったかもしれない。
あるいは…」

顎に指をかけて考え込む。
「もしかしたら何らかの人類に当てたメッセージだったのかもしれない。それをプレゼントなどと勘違いしたものだから彼らが頭に来たとか」
一騎ははあっ、と大きく息を吐いた。

「いくらなんでも考えすぎ。だってそしたらその頃のプレゼントって子供たちにとって何の意味もないものだったかもしれないし」
第一、フェストゥムが何か人間に贈り物、など、想像も付かない。

一騎は額を抑え、総士を促した。
「もうさ、寒いから中に入ろうよ」
きっと、寒さで総士の思考もおかしくなってるんだ、とは言えなかったが、密かに思ったことは事実だ。

「ふむ。そうだな」
総士も大人しくついてくる。




 クリスマスだからと言って特別なことは考えてはいなかった。
何しろ、明日もまた、アルヴィスに詰めなくてはならない。
父と総士は朝早くから会議だし、一騎も訓練がある。

 それでもケーキとチキンは買ってきていた。

それらと、温かい野菜たっぷりのスープを並べていると、総士がまた、
「サンタは」
と言い出した。
一騎はこめかみが疼くのを感じながら、
「何?」
と聞き返した。

「いや、先ほどの話だ。何故暖炉というのものを選んだのかな、と」
「うん、だから戸が閉まってて入れないからだよ。きっとあったかい地方では窓とか、そういうとこから入るんじゃないかな」
スープを皿につけながら特に考えもせずに返す。
総士の方もまた、並べられる料理のことなど気にする風もなく、サンタのことに没頭しているらしい。

「もしかしたら夜更かししてる家もあるかもしれないだろう? そういう家は暖炉もつけているだろう」
「うん、だからそんな夜更かししてるような家には来てくれないんだよ。夜更かしするのは悪い子だ、ってなるんじゃないかな」
「あ、そうか」
「……」
思い切り納得したらしい総士に、一騎の方がびっくりした。
「なるほど、そういうことなのか」
ふむふむ、と一人頷き、晴れ晴れとなった顔で皿を並べ始める。

 総士の頭ってわからない…。

切り分けたケーキの皿を並べ、きちんと横にフォークを置いてゆく総士の後姿を見つめたまま、一騎はしばらく呆けていた。

 外はちらちらと雪が舞い始めている。
一騎はちらり、と窓の外に視線を投げ、笑った。

 雪が降って視界が悪いかもしれない。進入灯か何か、つけた方がいいかもしれない。
そう提言しようかどうしようか、迷いつつも、言わなかった。
もし言っていたら、本当につけるかも知れない。
でも、サンタはそのようなものがなくてもちゃんと道が判るのだろうと思う。
 子供たちのところにちゃんと来るのだから。

 今夜、総士のもとにもやってくる。
彼のための、新しいコーヒーカップを届けに。

















John di ghisinsei http://yokohama.cool.ne.jp/gisinsei1129/

2007/12/25