このお話は「しずくちゃん」の中の、なみだ君(cv:石井さんv)が友達の、「仲良くしたい女の子がいるんだけどどうしたら…」という悩みに、
「こうすればいいんだよv」という感じでデートのシミュレーションをするところに始まります。

なぎさを走る女の子、それを追いかけるなみだ君。
「捕まえてご覧なさーいv」「まてよぉv」という、お約束の展開です(笑)
声が石井さんなもので、頭の中で一総変換(笑)それを、ある方が小説に起こしてくださいましたv

ありがとうございました!























                        
At a world end 











≪ ――― いいか、一騎。もう何度もした訓練だから慣れていると思うが、手は抜くな

よ。 ――― ≫

「もちろんだ、総士。じゃあ、始めようか。」

≪ ――― 分かった。それでは、メディテーション訓練を開始する。 ――― ≫

「了解!」







 今日の訓練は、一騎一人だった。皆は昨日のうちに同じプログラムを済ませてしまった

ので、訓練施設内には、二人以外、誰もいなかった。訓練前のミーティングも、今日は二

人っきりだった。


「総士、ごめんな、正月から訓練につき合わせて……」

「気にするな。戦闘はいつだって起こりうる。それに、他にパイロットがいない方が、待

たせる時間を気にせずに出来るから、実はありがたい。」

「そうなのか……?それならいいんだけど。」

「ああ。お前こそ、昨日は大晦日で家のことを全部していたのだろう?本来なら、休みの

はずじゃないか。」

「そうなんだよな。俺んちは、父さん、ちっとも、あてにならないからなぁ……」

 一騎がぼやくと、司令に配慮して、総士は控えめに笑みをもらした。

「でもいいや……、俺もゆっくり訓練できて。」

「そうか……」

 総士は意外そうな顔をしたが、一騎にしては「当然」だ。

(だって、考えてみたら、総士と「二人っきり」じゃないか……!たとえ、訓練だとして

も……!!)

 そう考えると、一騎は、訓練もちっとも苦痛ではなかった。

「じゃあ、総士。これ終わったら、一緒に、俺んち行って、おせち、食おうな。」

「……ああ……その…いつもすまない。」

 まっすぐな笑顔を向けて誘う一騎に、総士は、いつもの照れ隠しの「難しい顔」で返事

をした。







 一騎は目を閉じた。


 自分の周りに内面からにじみ出てくるように、別の世界が広がって行く。

 

 そして、瞳を開けた一騎の目に、やがて映ったのは………







 青い空……

 足元では、穏やかな波がきらきらと光を反射させている。

 細かい砂は真っ白に輝いていて、打ち寄せる波にさらさらと音を立てながら、遊ぶよう

に行き来していた。

 その波打ち際に立って、穏やかな風に一騎は吹かれていた。




(この前に来た時と、全然違うな……)

 特に初めて来た海とは、全く別世界のようだった。訓練に出て来る海は自分の心理状態

を表すと聞いたから、今のこの海は……


(今の俺って、こんな感じ……なのか……?)

 一騎は周囲を見回した。


 竜宮島だとも言えるし、そうでもないとも言えるし……


(ま……訓練だからな……実際の景色とは違って当然だよな……。)


 海の彼方に、山頂に雪をかぶった大きな三角形の島が見える。

(あの島の形……どこかで見たような……?)

 どこでだっただろうと、一騎は記憶を辿ってみるが、思い出せそうで出てこない。

(………なんとなく気になるけれど、……ん……でも、これって訓練に…関係……ないだ
ろうな……じゃ、ま、いいか。)

と、一騎は一人で納得すると、とりあえず波打ち際を、最初に立っていた方向へと歩いて

行った。


 空を仰ぐと、真っ青な色をバックに、名前は知らないが、大きな翼を持つ鳥が悠々と一

騎の上を通過して行った。




 しばらくして、ふと前方に見慣れた人影があるのに気が付いた。


(これって、誰かを探す訓練だったよな……でも、今日は俺一人だし……、それに、そん

なことってあるはず……?)

 一騎がそんなことを考えながら近付くと、その人影は振り向いた。


「や、やっぱり、総士!でも、お前、どうしてここにいるんだ?」

 一騎の問いかけに、予期せぬことが起こった。目の前にいる総士が「笑った」のだ。

「え……?……ちょ、ちょっと……総士……?」


 それも満面の笑みで……!


 例えて言うなら、昔幼い頃はさんざん一騎が見ていた、そして、他の誰にも見せたくな

いような極上の「天使の笑み」を浮かべる15歳の総士……!


(ど、どうしたんだ?総士、一体、……!)

 普通なら喜んでいいようなシチュエーションだが、そんな笑顔はあの時以来、すっかり

ご無沙汰になっている一騎には、疑問詞しか湧いてこない。

(う、嬉しいけど……でも、………、……、……、あ……そうか!)

 一騎はふと納得した。


(これ、訓練だし……、俺の深層心理だから、この総士もOKなんだ。)


 なら、と一騎は、このシチュエーションをめい一杯楽しむことにした。

 そう思うと、もう、あとは気楽なもので、二人っきりの訓練は、ますます楽しいものへ

と変化して行く。


「総士!ええと、俺、この後どうしたらいいのかな?」

 一騎も負けないように爽やかな笑顔を作って、総士に尋ねた。

 総士は相変わらず、「天使の笑み」を崩さずに一騎に言った。


「あの灯台まで走る。先に僕が行くから、一騎は僕を追いかけて捕まえるんだ。」

「分かった!総士、捕まえるんだな?お前を捕まえたらいいんだな?」

(楽勝じゃん!それに、「総士を捕まえる」ってなんだか……)

 考えただけで、一騎は胸がドキドキしてきた。


(捕まえて……?捕まえて……その先、どうしたらいいんだろう……?

 肩、抱き寄せちゃったりしてもいいかな……正月だし……あ、でも、……訓練だから不

謹慎かな……?!)


 まだ走ってもいないのに顔が火照ってきた。頬の緩みが段々大きくなるのが分かる。へらへ

らと笑っている(自分では見えないが)一騎に、総士は信じられないくらい優しく、次の

指示を出した。


「じゃあ、先に行くぞ、一騎。10数えたら、追いかけてくれ!」

「分かった!総士」

 総士がくるりと一騎に背中を向けて走り出すと、すぐさま「10」を数え始めた。


「いぃち、にい……、……、……、」

 総士は波打ち際をざぶざぶと走って行く。そう言えば何故か総士も自分も私服で、こん

な季節なのに、今着ているのは夏服だった。口は、うきうきとカウントの言葉を吐きなが

ら、頭の中では総士よろしく、同時進行で別のことを考えていた。


(ああ、久しぶりだな……総士の白い肩を見るの……、やっぱり二人っきりでよかった…

……!あんな姿で、あんなふうに笑われたら「誘ってください!」って言ってるようなも

んだよな……。)


「しぃ………ごお……」


(あ……!でも、この訓練、昨日、みんなとしたんだよな……!ま、まさか、この姿で、

みんなの前に現れたのかぁ……?!

 女子は大丈夫だとしても、他のやつらに?!……大丈夫かなぁ……追いかけられて捕ま

えられて変なことされなかったかなぁ……?あ、あとで、総士に確認しておかないと…

…!)


「くう……じゅう!じゃ、行くぞ!」


 一騎は全力で総士を追いかけ始めた。すぐに人外のスピードを誇る一騎の脚力は総士と

の差を縮め、あと一歩で追いつくという時、不意に総士がまたあの例の「笑顔」を浮かべ

て振り向いた。


(……あ……)

 一騎は咄嗟に、つかもうと思った総士の肩に手を伸ばすのを止めた。

(これ、捕まえたら、訓練、終わりなんだよなぁ……)

 そう思うと、なんだか惜しいような気がした。

(このままもう少し、この総士、見てたいよなぁ……!

 そして、何となく総士のスピードにあわせて後ろを追いかける。

(その後でもいいよな。捕まえてからのこと……)


「一騎、手を抜くなよ……」

 けれども、その言葉とは裏腹に、総士の表情には、いつもの「厳しさ」は微塵もない。

 

「分かってる。総士。お前こそ、もっと本気出せよ。」

 一騎も総士の笑顔につられて、頬が緩みっぱなしになる。

(そうし、可愛いいよなぁ……!髪の毛なんか、きらきら光って……)


「出してるさ、だから、早く、捕まえろよ、一騎。」

「ああ、総士!待てよ、待てったら……!」

 答えた自分の声のあまりの緊張感のなさに、一騎は一瞬「しまった」と思ったが、総士

は全然気にする風でもなく、というより、終始あの笑顔を浮かべて、時折、一騎を振り返

りながら、走って行く。

 自分に音楽の趣味があれば、きっと爽やかきらきらBGMが脳内放送全開だっただろう

……。


「ほら、早く、一騎!」

「待てよ、総士、待てったら!」



 既に、この「追跡」が訓練であった痕跡は、今の状況からは微塵も感じられない。

 一騎はもう、どうして総士を追いかけているのか、そんなことすらどうでもよくなって

きた。

 ただもう、こんなきれいな景色の中で、二人っきりで「追いかけっこ」をしているとい

ことだけが、嬉しくて、楽しくてたまらなかった。

(そろそろ、捕まえよっかな……。ああ、あの白い手、あの手をつかんで引き寄せて、そ

れから……それから……、……、♪……)




 青い空、それを写し取ったような美しい海。

 そして、ほんわりと浮かぶ白い雲、

 輝く砂浜に寄せては返す穏やかな波。

 心地よい風……。




 今、俺達、二人っきりだよな……!

 この広い世界に、たった二人きり……!!

 しかも、総士のあの「笑顔」……!!!




 一騎は、もう、夢のような時間を満喫していた。




(……ん……夢のような……、……、……、……)




 ゆ……夢ぇ―――……!!!?!!!




 そう思った瞬間、一騎は何故か足元にあった紫色の塊につまずいて、思いっきり波の中

に顔を突っ込……







んだと思った。




……思っていたら……







≪ ――― 一騎!聞こえるか、一騎……! ――― ≫


 いつもの冷静な総士の声がして、さっきとのギャップに驚いたが、同時に何となく安心

もした。


「……ん?総士、訓練終了だよな……?」

 総士を捕まえることは出来なかったが、まあ、もう少しのところまでいったので、これ

でよしとしてもらおうと、一騎が思っていると、


≪ ――― 何を寝ぼけたことを言っている!まだ、訓練は始まってもいないぞ…… ≫

 総士の呆れたような声がした。

「え……?だって、俺、海で……砂浜で……総士を捕まえるって……?!」


≪ ――― ……やっぱりそうか……開始直後に寝てしまってから、どんな呼びかけにも

応じなかったのは、あの状況をお前は「訓練」だと認識してしまっていたからだな…… ≫

 総士の声は、なんだか、訓練前より随分疲れているような気がした。


「ちょ……ちょっと……総士……?なら、あれは……?!あの総士は、あの場所は……?」


≪ ――― ……ただのお前の「夢」……だ。 ――― ≫


「え……、え……え―――!!!」


 さあーっと体中の血が足に降りてきたような気がした。「総士を捕まえる」ときとはまた

違った動悸がして、その勢いで速まった脈が全身を駆け巡っている。



 一騎はおそるおそる聞いてみた。


「あのさ………、総士……俺の、今見た夢って、お前…も…」

 総士は、一層、疲労感の増した声で

≪ ――― もちろん、精神リンクはされたままだったから、僕にも「見えた」……。さ

すがに、途中から記録は削除したが……、 ――― ≫

「音声付でか……?」

≪ ――― もちろんだ……。感情の起伏も一緒に…… ――― ≫

「……」




 二人はしばらく無言だったが、やがて……




≪ ――― やはり、昨日の年越しの準備で疲れているんだ。もう、今日は、中止しよう

……一騎…… ――― ≫

 なんだか気の毒そうな口調で、総士は言った。


「うん……悪いけれど……そうしてくれ……。」

 一騎も何となく、力の抜けた声でそう答えた。

(今日は、総士と一緒に家に帰って、がんばって用意したおせち、一緒に食べよう……。)




 総士もシステムを終了させながら思った。もちろん、全記録を削除するのを忘れないよ

うに……。

(いくら、大切な訓練でも、元日からするものではないな……。) 







 願わくは、今日だけは、フェストゥムが来ませんように……。















≪おわり≫






2007.0102














 



http://yokohama.cool.ne.jp/gisinsei1129/


2007/01/28
とても楽しいお話で、私一人で楽しむにはもったいなくて(笑)作者様の了解を得ましてUPいたしました。
本当に、心より感謝いたします。ありがとうございました!!(感涙)