ハロウィン余波






 
   
  総士は部屋にひとり、閉じこもっていた。
勤務の時と食事の時以外は外出はしない、と決めていたのだ。

 一歩外に出ればそこは総士にしてみれば『敵地』に等しい。

 何がハロウィンだ。

うっかり外に出て、一騎たちに捕まったら最後、何をされるか分かったものではなかった。

 あのようなものを頭に乗せられて写真なんぞ撮られた日には目も当てられない。


ひとりで机に向い、本を広げる。
思えばこのようにのんびりと何も考えることなく読書に勤しむなど、もう長いことなかったような気がする。
静かな中で本を読む。
この、心が休まる貴重なひと時を、総士はゆっくりと楽しむことにした。


 かすかなアラーム音の後、ドアが開いた。

「総士」
「……」
乙姫が立っている。

「どうした」
「うん。あのね、総士をパーティに誘おうと思って。
みんなで集まるんだよ。総士も行こう」
「……」
総士は大きくため息をついた。

 大体想像は付く。

正面から言っても無駄だから、乙姫から言わせたのだろう。
このようなことを思いつくのは、おそらく一騎だ。

断る、と言おうとして言えなかった。
再び、大きくため息をつき、ドアを見る。

外に気配を感じて、立ち上がり、ドアに向った。
案の定、そこには一騎が立っていた。ぎょっとしたように後ずさる。廊下の向こうに他の皆の姿もあった。

「やっぱりお前か」
「え…あの」
どぎまぎしたように俯く。
「だってあの」
「……まあいい…それで。どんなパーティなんだ?
仮装か?」
「えと、あの、仮装して近所の家を回るんだ」
「……家を回る?」
「うん、ノックして…その。俺もよく知らないんだけど…トリック・オア・トリートとか言うんだって」
「それはなんだ」
一騎はどんどん後ろに下がり、また声もどんどん小さくなってゆく。

「えっと」
ちら、とカノンたちの方を見ながら続ける。
「なんだっけ…お菓子くれないとイタズラするぞ、っていう意味なんだって。で、お菓子もらって…」
思わず一騎の胸倉を掴んでいた。
「待て、恐喝か? そのようなものはパーティとは言わないだろう! そんな場に乙姫を出すわけにはいかん!」
「いや、あの違うんだ! と思うんだ」
自信なさそうに、最後の言葉は消え入りそうになっている。

その時、つかつかとカノンが進み出てきた。
「総士、これは単なる祭りだ。恐喝などではない。
それをいうなら日本のなまはげだって似たようなものだろう。小さな子供にあのようなものを見せたらショックは大きいと思うぞ」
「いや、それとこれとは」
「どう違うというのだ。イタズラ、と言うには言うが、本当にいたずらをするわけではない」
「当たり前だ」
「なら乙姫ちゃんの参加に何の異存もないと思うが?」
「いや…」


乙姫の方を振り返る。
いつものように笑顔を浮かべているだけだったが。


「…………いいだろう」
ついに、総士は折れた。
何故か言いようのない敗北感に襲われる。
「総士も行くんだよ?」
「…………………………………分かった…………」


静寂の中で美味しいコーヒーを飲み、読書を楽しむ、などということは今の自分には夢の夢なのだ。

 まあいい。

総士は思考を切り替えた。

今のこの時期、静かに読書という方が間違っている。
今は戦時下だ。
つまり、これは戦争なのだ。
 敵は。
乙姫以下、ハロウィンなるものに加わっているものすべて。

総士は頭にかぼちゃが乗せられた場合にいかにしてそれを回避するかもしくは排除するかについて様々にシミュレーションしながら『戦場』に向っていった。























John di ghisinsei http://yokohama.cool.ne.jp/gisinsei1129/

2008/10/26