太陽の光が、公園の横に植えられた桜の木を明るく照らす。
花はちょうど八分咲き、というところだろうか。
 買い物帰りにそこを通った一騎は、桜の木を見上げ、今度はここに花見に来てもいいな、と思った。
弁当を食べるベンチもあるし、家からも遠くない。
何よりも、海が見渡せる。

 家に着くと、総士が憮然として居間でお茶を飲んでいる。
アルヴィスの制服は着ているものの、上着の前を肌蹴てスカーフを首にさらりとかけただけの、総士らしくもない格好だった。
「…どうしたの…」
「どうもこうも」
総士は一口、茶をすすった。
「今日、会議があるというのでアルヴィスに行ったら…嘘だった」
「え…誰に言われたの?」
「衛の父さんだ。メカニックの会議に出席して意見を聞かせて欲しい、とか言って」
ふと、一騎はカレンダーを見た。
「…総士…今日、何の日か知ってる?」
「うん? 四月一日だろう? それがどうかしたのか?」
「エイプリルフールだよ」
「うん?」
さすがに総士だな、と、可笑しくなって笑いが止まらない。
しかも、衛の父の事だ、この日を逃すわけもない。
「嘘をついてもいい日、だよ、知ってるだろ?
メカニックの会議なんてさぁ、すごく嘘っぽいじゃん」
「…嘘は嫌いだ」
「へえ」
一騎は、自分にもお茶を入れ、総士の真向かいに座った。
「東京があるなんて壮大な嘘をついてたのはどこの誰だったかな」
「…あれは…!」
心外な、といわんばかりに、立ち上がる。
一騎はその肩を押さえ、これから立て続けに事情説明が出てくるのであろう、その口を手で塞いだ。
「分かってるよ、総士、今の、嘘だから」
「…一騎…」
「だってさ、エイプリルフールってその日限定だろ?
総士のは何年も続いてたじゃん」
「だから一騎、あれは…」
「分かってるってば。苛めてるつもり、ないよ」
「…苛めてた、のか…?」
脱力したように肩を落として呟く総士が、どこか、可笑しかった。

「でもさー、会議、ってのはよくないよね」
「本当に間抜けだった…」
総士には、その手の嘘は向かない気がする。
間抜けというより、哀れにさえ、思えてしまう。
「…どうせならもっと笑える嘘がいいよね…」
「いや。よくない。エイプリルフールはこの島では廃止にしたらどうだろう」
「え、でも、これだけ浸透してるのに」
「…嘘だ」
「……」
一騎は、深くため息をついた。
「…総士の嘘って…笑えないから…」
「嘘はどんなものでも笑えないだろう」
「…うん…そうだね…」
内心、もう逆らうのはよそう、と思った。
少なくとも、この話題にはもう、触れない方が良いだろう。


 「そうそう、今度さ、花見、行かない?
公園とこの桜が今、見ごろだよ」
「…一騎…」
「なに」
「どこに誘い出す気だ?」
「え?」
総士は、すっかり疑い深くなってしまったらしい。
「花見とか言ってどこかとんでもないところに連れて行く気だろう」
小さくため息を落とす。
「…とんでもないとこ、って? 
大体、この島にそんな、総士がびっくりするようなとんでもないとこなんかないじゃん…俺よりお前の方がよく知ってるんだし」
「では…花見、というのはなんだ?」
「桜の花を見るの」
「見るだけ、か?」
「…もういい」
よほど、ショックだったのか、何でもかんでも疑って掛かっているようだ。

 しばらく、一騎はぼんやりと湯飲みを眺めていた。
せっかく、見ごろなのに。
 桜の花を見たからどうだ、ということはないだろう。
でも、きれいな花を眺めつつ、美味しい弁当でも食べたら楽しいだろう、と思っただけだったのだが。

「行ってもいいぞ」
ぼそり、と、低い呟きが聞こえた。
「え?」
「花見だろう? 去年、お前が徹夜で弁当を作った、あれだろう?」
「…うん」
「また徹夜するほどたくさん美味しいものを作ってくれるなら付き合ってもいい」
一騎は躍り上がった。
「うん! 作る! 何でも言って、リクエスト!
俺、作るよ、頑張る!」
総士は、何故か呆れたように大きくため息をついた。
「…お前がババ抜きが下手なわけがよく分かるな…。
それこそ、嘘に決まってるだろう」
「…え」
「徹夜なんかするな、馬鹿者。今度は…そうだな、俺が作ってやろう。何か本に載ってるだろう」
「………」
一騎は、しばし沈黙して総士の顔を眺めてしまった。

 それこそ、嘘であって欲しい。
などとは、間違っても口には出さなかったが、心の底から思ったことは、真実だった。

「…うん。楽しみにしてるよ、総士…」
一騎は、今度こそ、本当に嘘をついてしまっていた。














 
 



 


John di ghisinsei http://ghisinsei.sakura.ne.jp/

2006/04/01
拍手に置こうかとも思ったのですが、拍手のより長くなったので、こちらで。
数日間の限定UPですv
2007/03/04 再UPv